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冬はカキのおいしい季節ですが、生ガキを食べてお腹をこわした経験のある方もいるでしょう。
このような冬の食中毒症状の多くは、ノロウイルス(小型球形ウイルスSRSV)が原因です。

ノロウイルスはヒトの腸管で増殖し、ヒトから排出されたノロウイルスが河川を経て、
海にたどり着くと、カキなどの貝類にプランクトンと一緒に取り込まれ、貝の内臓(中腸線)に蓄積されます。
ノロウイルスが蓄積したカキを十分に加熱しないで食べると、嘔吐・腹痛
・下痢・発熱などの急性胃腸炎症状を発症することがあります。
 
生食用のカキには、出荷前に塩素殺菌などの方法でノロウイルスの不活化処理が行われて
いますが、食味を損なう可能性もあり、より効果的な不活化方法の開発が期待されていました。

nanobaburu02.jpg環境管理研究部門では、これまでのマイクロバブルに関する基礎研究をベースに約2%のオゾンを含む高濃度酸素のマイクロバブルを利用して、水中のノロウイルスの不活化に成功しました。
マイクロバブルを含んだ水は優れた浸透性をもっているため今後はカキの体内に含まれるノロウイルスを不活化する技術の確立も目指しています。
※写真はマイクロバブルを発生させている様子です

※産業技術総合研究所より抜粋

世界で初めてマイクロバブルの利用によりノロウイルスの不活化に成功

-安全で美味なカキの商品化を可能に-

ポイント
 ●冬季における食中毒の最大の原因の一つであるノロウイルスに対しては、
  効果的な不活化法が存在しなかった

 ●マイクロバブルの帯電作用とオゾン分解時に発生するフリーラジカルの作用により、
  ノロウイルスの不活化に成功、ノロウイルスの不活化はRT-PCR法により確認

 ●循環型浴槽のレジオネラ菌やコイヘルペスなどへの対策にも応用が可能

概要
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)環境管理研究部門【部門長 指宿 堯嗣】は、低濃度のオゾンを含有したマイクロバブル(超微小気泡)の利用により、冬季における食中毒の主要な原因の一つであるノロウイルス(小型球形ウイルス:SRSV(Small Round Structured Virus))の不活化に成功した。
 ノロウイルスは、冬季における食中毒の主要因の一つである。ノロウイルスは十分な加熱処理により不活化できるが、ノロウイルスに汚染された生ガキなどの貝類を食したときに人体に取り込まれ、嘔吐、腹痛、下痢、発熱などの急性胃腸炎症状を発症する。現行技術によるノロウイルスへの対応としては、カキなどの貝類の無菌海水中での蓄養や塩素系殺菌剤の利用がなされている。しかし、無菌畜養にはコスト面の問題や、冬季は冷水によりカキの濾水量が低下して効果的な除菌作用が期待できない等の問題がある。塩素処理においては、ノロウイルスは、塩素系殺菌剤や消毒用アルコールに対して抵抗力を持っており、不活化のために塩素濃度を上げるとカキの味覚を著しく損なう問題がある。このため、ノロウイルスの効果的な不活化方法の開発が期待されていた。
 産総研環境管理研究部門では、マイクロバブルに関する基礎研究をベースにして、工学的な応用のための研究を進めている。マイクロバブルとは直径が50μm(1マイクロメートル:100万分の1メートル)以下の超微細な気泡であり、水中を浮遊する過程でナノレベルまで自然収縮し、最終的には内部の気体を完全溶解させて消滅するという性質を有している。このマイクロバブルには帯電作用や自己加圧効果などの特性があり、工学的な応用の可能性が極めて広い。産総研環境管理研究部門はこの現象を利用して、約2%のオゾンを含む高濃度酸素のマイクロバブルにより、従来技術では難しいとされたノロウイルスの不活化に成功した。
 なお、ノロウイルスの不活化については、東京都健康安全研究センター【所長 金田 麻里子】の協力により、確認されている。
 今回のマイクロバブルによるノロウイルスの不活化の成功は、水中を浮遊しているノロウイルスを不活化したものであるが、マイクロバブルを含んだ水は浸透性にも優れており、蓄養中の生きたカキのみでなく、むき身にしたカキの体内におけるノロウイルスに対しても効果が期待できるため、産総研環境管理研究部門では引き続き研究を進めている。また、この技術の利用により循環型浴槽のレジオネラ菌、コイヘルペス問題などへの対応も可能である。なお、本研究に関連した特許を2件出願中である。

研究の背景
 ノロウイルスは冬季における食中毒の主要因の一つであり、平成13年度の厚生労働省の食中毒統計調査によると、食中毒患者総数の約3割がノロウイルスに起因している。ノロウイルスはヒトの腸管で増殖し、下水処理場を介して河川や海洋を汚染すると考えられている。ノロウイルスはプランクトンと一緒にカキなどの貝類に取り込まれ、これを人が食し、加熱処理などが不十分な場合には、人体に取り込まれて24~48時間後に嘔吐、腹痛、下痢、発熱などの急性胃腸炎症状を起こし、2~3日程度で回復する。
 県の公衆衛生協会などによりノロウイルスが検出された漁場では、県条例により生ガキの出荷が停止されるため、やむなく加熱用として出荷されるが、同じ経費と手間で相場値が半減するため、漁業関係者にとっては大変な痛手となる。ノロウイルスが問題となるのは海水温の低下する1月以降の冬季に多く(冬季は水温が低下し、カキの活動が低下することで、中腸腺という部分にウイルスがたまりやすくなると言われている。)、カキ出荷の最盛期であることもあり、漁業関係者はその対応に頭を痛めている。
 ノロウイルスが食品衛生法により、食中毒の病因物質として指定されたのは極めて近年(平成9年)のことである。これは遺伝子的な解析技術が発達して原因の特定が可能になったことによるが、ノロウイルスの実験培養系は未だに確立されていないことから、食中毒防止のための対策がまだ十分ではない。
 生食用のカキは、加工場でむき身にされたものと、殻付きで生きたままのものとして出荷される。通常前者には塩素による殺菌が施されるが、ノロウイルスは塩素系殺菌剤にある程度の耐性を持っており、また、ノロウイルスの不活化を目的として塩素濃度を上げるとカキの味覚を著しく損なう問題がある。殻付きのカキに対しては、出荷前に陸上の水槽で1~2日程度の蓄養を行う。この時の水槽内の水が無菌海水であれば、カキは濾水により体内を浄化するため、汚染の危険性は低下する。しかし、冬季の冷水中においてはカキの濾水量が少なく、効果的な除菌作用が期待できない等の問題がある。

今後の予定
 ノロウイルスの問題を完全に解決するためには、下水処理場における出口管理を徹底させることである。将来的には下水の処理水にオゾンを含有したマイクロバブルを直接供給することにより本技術の適応が可能である。また、産総研環境管理研究部門では、浜上げされたカキへの対処療法的な手法として、蓄養段階のカキやむき身にされたカキに対して、体内のノロウイルスを不活化する技術の確立を目指している。蓄養槽中のカキに関しては、ナノレベルまで縮小したマイクロバブルが濾水によりカキの体内に取り込まれるため、中腸腺内のノロウイルスに直接働きかける可能性が高く、効果が期待できる。また、むき身ガキに対しては、通常の方法では表面のみしか不活化することが出来ず、カキの体内に含まれるノロウイルスを駆逐できない。しかし、マイクロバブルを含んでいる水は優れた浸透性を持っているため、この効果を利用することでむき身ガキの体内浄化についても研究を進めている。なお、オゾンのマイクロバブルは最終的には完全溶解して、オゾン自体も酸素に分解するため、食用として安全である。これら体内浄化を含めた技術が確立できれば、食用として安全であるばかりでなく、味覚にも優れたカキの出荷が可能となる。

用語の説明
◆蓄養
カキなどの貝類を、主に浄化の目的で、一昼夜程度、陸上の水槽で飼育する方法。

◆濾水量
貝類が呼吸や補食のため体内に取り込む海水量。
カキの場合、一時間に25~35Lと言われている。

◆オゾン
3つの酸素原子から構成される気体(O3)であり、強い酸化力を持っている。 分解時には、・OHなどのフリーラジカルを発生させて酸素分子(O2)に変化する。

◆循環型浴槽のレジオネラ菌問題
入浴施設においては細菌類による感染症が問題となっているが、特にレジオネラ属菌は浴水の中で大量に繁殖する特性を持ち、エアロゾルとして吸入した場合、重症のレジオネラ肺炎を起こす。現在は塩素殺菌が主に利用されているが、レジオネラ属菌が宿主としている生物膜内部へは効果が及ばないなどの問題があり、浴槽水の循環浄化法の確立が望まれている。

◆コイヘルペス
コイ(マゴイ及びニシキゴイ)特有の伝染病でコイ以外の魚や人への感染はない。欧州やアジアで発生しているが、茨城県霞ケ浦の大量死で問題化するまで国内での感染報告はなかった。ウイルスに感染したコイとの接触や水を介した接触により感染するとみられ、死亡率が高い。現在のところ治療法はない。本技術の適用については集中的な研究が必要であるが、感染したコイを水槽に入れて薄いオゾン濃度のマイクロバブルを与えるなどの手法が考えられる。

◆中腸腺
中腸腺とは軟体動物(2枚貝等が含まれる。)や節足動物における、脊椎動物の肝臓とすい臓の機能を併せ持った消化酵素を分泌する器官のこと。